残業代を請求して断られた場合どうしたらよい?

トラックドライバーなどの長時間労働をされている方で、残業代が請求できるほど働いているはずなのに、会社から残業代の支払いを断られるということもあります。
そこで、そのような場合にどうしたらよいか、特に残業代が発生しているか確認するために残業代の計算方法と、残業代の請求方法について解説いたします。

残業代の計算方法

残業代の計算方法

時間単価の計算

残業代は、時間単価×残業時間×割増率で求めることができます。
そのため、まずは1時間当たりの時間単価を計算する必要があります。
時間単価の計算方法は、労働基準法施行規則に規定されており、下記のとおりです。

①時給制の場合
→時給額

②日給制の場合
→日給額を1日の所定労働時間数で割った額
※所定労働時間数とは、就業規則等で決まっている始業時刻から終業時刻までの時間から休憩時間を引いた時間をいいます
※日によって所定労働時間数が異なる場合には、1週間における1日の平均所定労働時間数が1日の所定労働時間数となります

③週給制の場合
→週給制の場合は、週給額を1週間の所定労働時間数で割った額
※週によって所定労働時間数が異なる場合には、4週間における1週間の平均労働所定時間数が1週間の所定労働時間数となります

④月給制の場合
→月給制の場合は、月給額を1か月の所定労働時間数で割った額
※月によって所定労働時間数が異なる場合には、1年間における1か月の平均所定労働時間数が1か月の所定労働時間数となります

⑤年俸制の場合
→年俸制の場合は、年俸額を1年間における所定労働時間数で割った額

⑥出来高払制の場合
→出来高払制の場合は、賃金の総額を当該賃金の算定期間における総労働時間数で割った額

残業時間の確定

時間単価が計算できたら、次は残業時間を確定します。
残業時間は、実労働時間から所定労働時間を引いた時間となりますので、まずは実労働時間を確定することが必要です。

実労働時間は、労働基準法上の労働時間をいいますが、こちらは「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」をいうものとされており、労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に決まります。

そのため、労働者が実作業に従事している時間以外にも労働時間とされる時間は多々ありますが、労働時間にあたるかどうかの区別は一律に決められるものではなく、具体的な状況によって様々です。

たとえば、実作業前後の準備や片付けの時間、待機時間、宿直の際の仮眠時間、呼出待機時間、移動時間、あるいは接待や健康診断について労働時間にあたるかが問題になる場合が多いです。

これらは、会社から命じられた業務との関連性、会社からの明示又は黙示的な指示があったかどうかなどを中心に判断されます。

これらの判断を経て実労働時間を確定した後、所定労働時間を引いて残業代が請求できる時間を確定させます。

割増率

時間単価や残業時間が確定出来たら、最後に割増率を算定します。

会社が労働者に時間外労働や休日労働、深夜労働などをさせた際には、通常の賃金よりも割増をした賃金を支払う必要があります。その際にどれくらい割増が行われるかをいうことを割増率といいますが、これは、法律によって下記のように定められています。

<条件> <労働時間> <割増率>
法内残業 1日8時間、週40時間以内 0%
法外残業 1日8時間、週40時間以上 25%
深夜労働 22時~翌5時の労働 25%
休日労働 法定休日の労働 ※ 35%
1か月に60時間以上 月60時間を超える時間外労働 50%

※法定休日とは、単に土日や祝日ではなく、労働基準法35条によって定められた日をいい、原則として毎週少なくとも1回与えなければならない休日のことをいいます。

確定した時間単価と残業時間に割増率をかけ算することで残業代が計算できます。

残業代の支払いを断られたら

残業代の支払いを断られたら

残業代支払い拒否に多い理由

トラックドライバーの方の請求に対して、会社が残業代支払いを拒む理由としては、以下の3つのものが多いです。

①歩合給制度を採用しているから残業代は発生しない
②残業手当を支払っているから残業代は支払い済みである
③荷待ち時間は労働時間ではないから残業代は支払えない

このような理由が告げられたとしても、必ずしも会社が残業代を支払わなくてよいということではありません。しっかりと残業代を計算して、請求をすることで残業代の支払いを受けられる可能性があります。

①歩合給制度を理由とする拒否

歩合給制度を理由とする拒否

そもそも歩合給とは、仕事の成果に対する報酬であり、残業代は労働時間に対する報酬ですから、性質が異なるものです。

そのため、たとえ歩合給制度を採用しているとしても、法律上定められた労働時間に関する規定を全く無視できるというものではありません。
ここまで計算したように、歩合給制度であっても残業代が発生しているならば残業代は請求できます。

しかし、会社によっては、「すでに歩合給の中に固定残業代が含まれている」という整理をして残業代の支払いを拒否する場合があります。

このような会社の整理に対しては、判例がでており、「通常の労働時間の賃金に当たる部分と残業代部分が区別できないときには残業代が支払われたとすることはできない」という趣旨の判断がされました。
そのため、こうした区別ができない状態であれば、残業代を支払ったとはいえないので、残業代を請求することができます。

また、仮にこうした区別ができたとしても、労働契約時に固定残業代という制度を採用することについて合意がない場合や、法に基づいて計算した残業代が固定残業代を超える場合には、残業代を支払う必要があります。

②残業手当を理由とする拒否

残業手当とは、就業規則などで会社が決めた所定労働時間を超える残業に対する手当のことをいいます。残業手当を支払っているから残業代は支払わなくてよいという会社の整理によると、会社としては、固定残業代を支払っているから追加で残業代を支払う必要はないという整理を行っているものと考えられます。

固定残業代とは、みなし残業代ともよばれるもので、あらかじめ残業することを想定して、残業手当を定額で支払う制度です。

この場合、会社は、想定された残業時間を超えない場合でも、定められた定額の残業代を支払わなくてはなりません。逆に、想定された残業時間を超えた時間の残業を行った場合には、その超過分を支払わなくてはなりません。

そのため、残業時間と残業代をしっかりと計算することで会社に対して残業手当によって支払われていない超過分を請求することも考えられます。

③荷待ち時間を理由とする拒否

荷待ち時間を理由とする拒否

ドライバーという職務の性質上、荷待ち時間が発生します。積み下ろしする荷物を待っている時間は、荷物を運んでいるわけではないから、労働時間に入らないという整理をして、残業代を支払わないというケースもあります。

このような時間が「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」にあたるとして、労働時間としてカウントされるならば、残業代は発生します。

労働時間にあたるかは、個々の事情によって判断が分かれますが、基本的には荷待ち時間も労働時間にあたる可能性があります。
荷待ち時間は、荷物がいつくるかわからずに待っていなければならず、自由な時間を過ごすことができない上、その場での待機が事実上命じられている場合が多いため、実作業がなくとも使用者の指揮命令下にあると判断されやすいからです。

ですので、荷待ち時間も会社の指揮命令下にあるとして、労働時間に入るとして、残業代を請求することも考えられます。

証拠集め

残業代の請求ができることが分かったとしても、裁判になった場合の労働時間は、残業代を請求する労働者の側で証明しなくてはなりません。裁判ではなく、会社と交渉をする場合でも、証拠がない限り会社はとりあってくれません。

そのため、できる限り多くの証拠について確保しておく必要があります。
確保しておくと有効な証拠としては、
・タイムカード
・労働時間管理ソフト
・メールの履歴
・タコグラフ
・運転日報
・メモや日記

などが挙げられます。

ただ単に「これだけ残業をしたからお金を払ってくれ」といっても、会社はとりあってくれません。何らかの方法で形として残業時間がわかるものを残しておくことが重要です。

残業代を請求する方法

残業代を請求する方法

残業代の請求ができることがわかり、証拠をある程度確保できたら、いよいよ残業代を請求します。
残業代を請求する方法、流れについては以下の記事をご覧ください。
https://www.saitama-bengoshi.com/mimiyori/20230627-1/

まとめ

まとめ

ここまで、ドライバーの方が残業代請求をしても拒否された場合にやるべきことについて解説いたしました。

残業代の計算をするためには、どこまでが労働時間にあたるのかということを判断する必要があり、これは会社ごとの事情によって変わりうるものですから、専門的な判断が求められます。残業代をめぐってお悩みの方は、一度弁護士に相談していただけますと幸いです。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 遠藤 吏恭
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