残業代未払い(サービス残業)は違法です。未払いの残業代がある場合、労働者は会社に対して、その未払い残業代を請求することができます。
しかし、請求が認められるためには、一定の証拠集めが必要になってきます。
そこで、以下本サイトコラム記事では、未払い残業代請求のために必要な証拠など、未払い残業代請求のための知識、ノウハウ、解決方法を紹介・解説していきます。

1 未払い残業代が請求できる場合

もちろん、そもそも残業していない、あるいは残業したものの残業代が全額支払われているということであれば、未払い残業代は請求できません。
しかし、一般的な労働者の場合、以下に挙げる項目に当てはまる方は未払い残業代を請求できる可能性が高いと思います。

①法定労働時間を超えた分の割増賃金が支払われていない
(例:「うちの会社は残業がなく、残業代は出ない」と会社から説明されているが、実際は残業をしている)

②所定労働時間を超えた分の残業代が支払われていない
(例:定時にタイムカードの打刻をして、その後も残業している)

③休日労働分の割増賃金が支払われていない

④深夜労働分の割増賃金が支払われていない

⑤本来労働時間であるはずの時間が労働時間になっていない
(例:始業前の早出残業時間など)

⑥管理監督者として残業代が支払われていないが、実態は「名ばかり管理職」(実質的には労働者と変わらない)

⑦会社から変形労働時間と言われているが、月・年単位で所定労働時間を超えている

⑧会社から固定残業制(みなし残業制)と言われているが、いくら残業をしても残業代が変わらない

⑨会社から裁量労働制と言われ、残業代が支払われていない
(例:みなされる時間が法定労働時間を超えている、法定休日に労働した、深夜労働した)

2 未払い残業代の計算方法

2-1 計算式

未払い残業代の計算式は次のとおりです。

「1時間あたりの基礎賃金×残業時間×残業の種類に応じた割増率」

1時間あたりの賃金は、日給制であれば日給を8時間(1日の法定労働時間)で割れば算出が可能です。月給制であれば「月給÷1か月の平均所定労働時間」で計算できます。1か月の平均所定労働時間は、「(365日-1年間の休日数)×1日の所定労働時間数÷12」です。

2-2 割増率

労働基準法に定められた割増賃金の割増率をまとめると、以下のとおりになります。

上記※にもあるように、従前は資本金や出資金の額が一定額以下又は常時使用する労働者が一定数以下の中小企業には一部適用が猶予されていましたが、2023年4月からの猶予廃止が決まっており、大企業と一律の割増率になります。

以上のとおり、あなた自身でも未払い残業代を請求することは可能ですが、間違いなく正確に計算するのであれば、弁護士に相談・依頼すべきです。

3 未払いの残業代請求で有効な証拠

3-1 残業代請求には証拠が必要

未払い残業代の請求を行うためには、証拠が必要になります。
後にも記載するように、未払い残業代を、会社との交渉で請求するか、労働審判で請求するか、訴訟(裁判)で請求するか、その方法にかかわらず、事前に証拠を集めておくことが、未払い残業代の請求のためには非常に有益です。

3-2 どのような事柄を証明する証拠が必要か

では、どのような事柄について、証拠が必要なのでしょうか。
証拠集めの前提・視点として、とても大切なポイントです。
労働者が使用者に対して、未払い残業代を請求するためには、以下の点について証拠で証明(立証)していく必要があります。

①労働契約があること

②残業代等についての取り決めがある場合には、その取り決めの内容

③残業の存在とその時間

以下、一つずつ解説していきます。

3-3 ①労働契約があること

当たり前のことかもしれませんが、使用者との間で労働契約を結んでいることが必要です。特に労働者と使用者との契約が、労働契約か請負契約等の契約かという形で問題になるケースがあります。
この点は労働者とすれば、雇用(労働)契約書や労働条件通知書があれば、立証としてはそれで十分です。
もしこれらの資料がない場合には、給与明細などにより立証することになります。

3-4 ②残業代等についての取り決めがある場合には、その取り決めの内容

残業代を請求する前提として、残業代について、どのような取り決めがなされているか、あるいはなされていないのか、という点も重要なポイントです。
時間外労働等の手当や割増率が雇用契約書や労働条件通知書、就業規則、賃金規定等に定められている場合には、それらをもって立証することになります。
ただし、これらが存在しないか、存在するとしても法定された割増率よりも少額の手当を支払うとの規定がある場合でも、労働者は使用者に対して、残業代等を請求できます。
ちなみに、雇用契約書や労働条件通知書、就業規則、賃金規定等で法定の率を超えた割増率を規定している場合には、その雇用契約書や労働条件通知書、就業規則、賃金規定等が優先します。

3-5 ③残業の存在とその時間

具体的にどのくらい残業をしていて、どのくらいの未払いが発生しているかを計算するために必要な点です。
労働者とすれば、始業・終業時間が分かる資料を用意することが必要となりますが、正確な時間外等の労働時間数が、直接示された資料が存在することはほとんどの場合ないと思います。
そこで、この労働時間数を、証拠から明らかにしていくことが必要になります。

4 未払い残業代の請求方法(流れ)

概ね、①証拠集め→②会社と交渉→③裁判以外の紛争解決手続→④労働審判→⑤裁判という流れが一般的です。
ただ、全ての手続を経なければならないというわけではありません。③を経ないで、②→④あるいは②→⑤というケースも多いです。

4-1 まずは証拠集め

未払いの残業代があっても証拠がないと請求が難しいのが実情です。証拠がないと、それをいいことに会社が支払いに応じてこない可能性もあります。
また、証拠がないと残業代を正確に計算することも困難という場合もあります。
どのような証拠が有効となるかについては、後ほど詳しく解説します。

4-2 会社と交渉

証拠がある程度確保できたら、まずは会社と交渉をして話し合いによる解決を模索することが一般的です。会社と直接の交渉、話し合いをしたくないということであれば、弁護士に相談、依頼すべきです。

会社への未払い残業代の請求方法としては、書面による請求が望ましいです。
もっとも、普通郵便やファックスによる請求では、後日裁判になってしまった場合に、その書面が会社に到達しているかどうか(会社が内容を確認したかどうか)について争いとなる可能性があります。
そこで、会社に対しては、内容証明郵便又は特定記録郵便で書面を送付して未払い残業代を請求することが良いと思います。内容証明郵便は、文書の内容まで郵便局が証明してくれるものです。
書面の内容としては、雇用契約の内容や残業の事実・残業代未払いの事実、請求額のほか、支払期限や振込口座などを記載しますが、弁護士に相談、依頼し、代わりに作成・郵送をしてもらうこともできます。

4-3 裁判以外の紛争解決手続

会社との交渉が決裂してしまった場合、直ちに裁判により解決する方法も考えられますが、裁判による紛争解決に伴う時間、費用面でのデメリットを回避すべく、裁判外紛争解決手続(ADR)等を利用する方法もあります。
具体的には、①労働基準監督署、②労働相談センター、③労働者健康福祉機構、④労働委員会、⑤弁護士会があります。

4-4 労働審判

裁判所を使った手続ですが、労働審判は、原則として3回以内の期日で審理し、適宜話し合いでの解決を試みながら事案の実情に即した柔軟な解決を図ります。結果が確定すれば、判決と同一の効力がある上、3回以内の期日で解決を図るという点で、裁判よりはるかに迅速性の高い手続になっています。
ただし、この手続でなされた労働審判に対して、当事者から異議の申立てがあれば、労働審判はその効力を失い、労働審判事件は裁判に移行することになります。

4-5 裁判

上記のような方法を試みたにもかかわらず、解決に至らない場合には最終手段として、訴訟を提起し、裁判で決着をつけることになります。

5 残業代請求で一番大切な証拠

繰り返し述べているように、未払い残業代の請求のためには、証拠が必要です。この点が最も重要です。具体的にどのような証拠が有益なものとなるのか、詳しくご紹介していきます。

5-1 証拠の重要性

証拠がない場合でも、未払い残業代の請求自体はできると思いますが、少なくとも証拠がなければ、労働審判や裁判など、裁判所を使った手続では、請求が認められない可能性が高いです。それは、残業代請求の立証責任が労働者側にあるからです。つまり、裁判では残業代の立証は労働者が行う必要があり、残業代の立証ができなければ、その残業代請求は認められないことになってしまうということです。
そのため、未払い残業代を請求するためには、証拠がとても重要となってきます。
また、証拠は多すぎて困るということはありません。証拠により証明する力が強いもの・弱いものもありますので、たとえ決定的な証拠がなくても、少しでも広く多くの証拠を集め、労働者自身が証拠を手元に保管するようにしましょう。
どのような証拠が有効なものとなるか、以下に具体例として列挙していきます。ただし、ここに挙げた証拠はあくまで典型例であって、これ以外は一切証拠にならないという趣旨ではありません。お持ちの資料などが残業代請求の証拠になるかご不安な方は弁護士に相談されることをお勧めします。

5-2 雇用契約書や雇用条件通知書

多くは、入社時に取り交わしているものです。労働条件(就業時間や基本給、残業代など)に関する取り決めなどが明記されているはずです。
なお、一般的に雇用契約書は、使用者と労働者双方の契約で、署名捺印しているもの、雇用条件通知書は、一方的に使用者から交付されているものを指します。

5-3 給与明細

労働時間や残業時間の確認、残業代が毎月どのくらい支払われていたかを確認するために必要となります。

5-4 就業規則、36協定など

退職前であれば、写し(コピー)をご準備ください。

5-5 タイムカード

労働時間に関する典型的な証拠としては、まずタイムカードが挙げられます。
多くの裁判例でも、タイムカードがある場合は、特段の事情のない限り、タイムカードに基づいて作成された個人別出勤表記載の時刻から労働時間を推定しています。
在職中の場合、タイムカードのコピーをとっておくなど、予め残業代請求の証拠集めをしておくとよいと思います。
なお、タイムカードを押した後に残業しているなど、タイムカードの打刻時刻が実態に即していない場合は、タイムカードのほか別の証拠が必要となります。

5-6 タコグラフ(タコメーター)

タコグラフ(タコメーター)とは、運行時間や速度の変化などをグラフ化し、その車両の稼働状況を把握するため自動車に搭載する「運行記録用計器」のことです。主に運送業(トラックのドライバーなど)において、労働時間(残業時間)を算出するために用いられます。

5-7 業務日報や業務日誌

業務日報や業務日誌で労働時間が管理されている場合、その記録が正しいということが前提になりますが、労働時間(残業時間)を算出するためには有益な証拠となります。

5-8 パソコンの使用時間

業務で使用しているパソコンの電源を入れた時間と電源を切った時間(あるいはログインした時間・ログオフした時間)も有効な証拠になります。パソコンが起動している時間は、労働していたと考えられることが理由です。

5-9 メールの送受信履歴

メールの送受信履歴も、ひとつの証拠になります。会社のアカウントでメールを送った記録が残っていれば、その送信時間までは少なくとも会社に残っていたあるいは会社外でも業務時間内であったという証明になる可能性があるためです。
ただし、あくまでメールの内容は業務に関するものであることが前提であり、私的なメールなどでは労働時間や残業時間の認定にはつながらないと思います。

5-10 上司からの残業指示書など

上司から残業を指示する内容の資料があれば、それも証拠になります。例えば、残業指示書のほか、残業を指示するメール、残業の指示を受けた際の音声の録音やメモ、上司が残業を承認したことが分かる書面などがあります。

5-11 日記や手帳など

上記に挙げたタイムカード等の客観的資料がない場合でも、個人的な日記や手帳のような資料により、一応の立証ができる可能性はあります。
ただ、日記や手帳などは、ご自身で記録していることから必ずしも客観性が高いとは言えません。そのため、裁判において証拠として認めてもらうためには、日課として日々毎日機械的に記録していて、かつ具体的かつ詳細に記載されていることが前提として必要になってきます。

いかがでしょうか。
もちろん上記証拠が全部必要なわけではありませんが、証拠は多ければ多いほど良いです。
ただ、各事案によって必要・有益な証拠は異なってきますので、ご自身の場合、どのような証拠が必要・有益となるか、早めに一度弁護士に相談してみることをお勧めいたします。

6 証拠がない場合の対処法=開示請求

上記のような証拠がない、またはすでに退職してしまって手元に残っていない場合など、「未払い残業代を請求したくても証拠がない」とお困りの方もいると思います。
もちろんその場合でもすぐに諦める必要はありません。
その場合には、会社に対して証拠書類の開示を求めます。これを開示請求といいます。
開示請求はあなた自身でもできなくはありませんが、弁護士に依頼して行うのが一般的です。弁護士があなたの代理人として開示請求をすれば、会社側も開示に応じる可能性が高くなるためです。
弁護士からの開示請求にも会社が応じない場合には、証拠保全命令の申立てのほか、労働審判や訴訟を提起して、その裁判所の手続きの中で資料開示を求めるという流れになります。

7 未払い残業代の請求には時効がある

未払い残業代を請求する権利には時効があります。
つまり、残業代を請求しないまま一定期間が経過すると、会社側が時効を主張した場合、残業代の請求が認められなくなってしまいます。
この点はご注意ください。
「お金に困ったら請求しよう」とか「退職した後に請求しよう」と先延ばしをして請求が遅れれば遅れるほど、請求できる金額が下がっていってしまう可能性があります。
残業代の具体的な時効期間は次のとおりです。

2020年3月31日までに支払日が到来する残業代→時効は2年
2020年4月1日以降に支払日が到来する残業代→時効は3年

労働基準法の改正によって2020年4月以降に発生する残業代の時効は「3年」になりました。

8 まとめ

8-1 未払い残業代請求は弁護士に依頼すべき

以上、未払い残業代請求のために必要な知識、ノウハウ、解決方法を紹介・解説してきました。未払い残業代を請求するには、まず手順を理解した上で、その事案に即した有益な証拠を確保することが重要です。
もっとも、その後の手続きとして、残業代請求の労働審判や裁判はもちろん、残業代を会社に請求して実際に交渉していくことや、会社へ証拠の開示請求をすることなども、個人で行うにはやはりハードルが高く、精神的な負担が大きいのも事実です。
また、弁護士が行う場合と異なり、個人で請求した場合、会社が積極的には応じず、交渉がうまくまとまらないケースが多いのも確かです。実際に、当事務所(弁護士法人グリーンリーフ法律事務所)がご依頼を受けた事案でも、当初は弁護士に依頼せず、自分で会社に請求したところ上手くいかなかったので、弁護士に依頼したという事例がありました。この事案も弁護士介入後は、会社が態度を軟化し、早期に残業代の回収を図ることができました。
そのため、未払い残業代の回収を成功させるためには、自分で行うよりは、法律のプロである弁護士に依頼すべきです。

8-3 依頼は残業代請求専門の弁護士へ

弁護士も「専門/専門外」あるいは「得意分野/不得意分野」があります。お医者さんも内科医と外科医など専門が分かれているのと一緒です。風邪の症状があってそれを治してもらうには内科医の先生に診てもらいますよね。風の症状で外科医の先生にはお願いしないと思います。
残業代の請求も、労働事件(残業代請求)を専門的に扱い、得意とする弁護士に依頼すべきです。
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所には、労働事件(残業代請求)を専門に扱うチーム(労働専門チーム)があり、残業代請求を得意としています。当然、残業代請求のご依頼を受けた場合には、その労働専門チームの所属弁護士が担当いたします。

また、弁護士に依頼する場合、残業代請求の成功/不成功にかかわらず、最初に依頼するための着手金が必要な場合が多々あります。残業代請求が認められ、回収できるかどうか不明な状況で、弁護士に着手金を支払うことに抵抗がある方も多いかもしれません。
もっとも、弁護士法人グリーンリーフ法律事務所では、残業代請求の着手金は無料(0円)です。
着手金にお困りの方、残業代請求のリスクをゼロにしたい方は、ぜひ「弁護士法人グリーンリーフ法律事務所」にご相談、ご依頼ください。

初めてでいきなり相談に行くのも不安・・・という方もご安心ください。
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所では、無料の電話相談やLINE相談を行っております。
まずは少しお話だけでも大丈夫です。お気軽にお電話ください。

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