このページは、残業代請求をお考えの方向けに、「残業代請求の紛争解決方法」に関して説明しています。
示談交渉
労働関係に基づくトラブルが発生し、当事者間での解決が困難な場合、弁護士が代理人として介入してトラブル解決に向けて活動します。
示談交渉の流れ
①事実確認・主張内容の検討
使用者との間でどのようなトラブルが発生したのかについて詳細な聞き取りを行い、聞き取った事実関係のもとでどのような法的主張が可能かを検討します。
②使用者に対して書面送付
使用者に対して、労働者の代理人に就任したこと、労働者として請求する内容、回答期限等を記載した内容証明郵便を送付します。
③使用者との具体的交渉
使用者から、使用者側で把握する事実関係、労働者の請求に応じるか否か等に関する回答がされた場合には条件面で折り合えるかどうかについて交渉を行います。交渉は書面で行うことが多いですが、面談で行うこともあります。
④示談交渉の終了
ⅰ 合意成立
使用者との間で交渉を重ね、解決条件が折り合う場合には使用者との間で合意書を作成することで示談交渉は終了します。その後、合意書に記載された内容を互いに履行することでトラブル解決となります。
ⅱ 交渉決裂
使用者から回答がない、使用者からの提案が労働者の最低条件に満たない等の場合には合意を取り付けることができないため、示談交渉は終了します。
その場合には、労働審判等の手続を利用するかを検討することになります。
メリット
早期解決が可能である。
裁判所の手続に比べて柔軟な解決が可能(様々な条件を付すことが可能)。
デメリット
強制力がなく、使用者が応じない場合には別の手続を取らざるを得ない。
使用者の出方によっては時間がかかる場合がある。
労働審判
労働関係に基づくトラブルが発生し、当事者間や代理人を通じた解決が困難な場合、裁判所において、裁判官や労使の専門的知識を有する者が組織する労働審判委員会が事件を審理し、原則3回以内の期日で、調停成立による解決の見込みがある場合には調停を試み、調停による解決が難しい場合には審判を行う手続です。
労働審判の流れ
①事実確認・主張内容の検討
使用者との間でどのようなトラブルが発生したのかについて詳細な聞き取りを行い、聞き取った事実関係のもとでどのような法的主張が可能かを検討します。
②労働審判申立て
聞き取った内容をもとに申立書を作成し、証拠を添付した上で管轄の裁判所(労働審判は原則として地方裁判所本庁で行います)に提出します。
③労働審判期日の指定
労働審判の申立てが受理されると、裁判官である労働審判官、使用者代表労働審判員、労働者代表労働審判員の3名からなる労働審判委員会が組織され、原則として申立てから40日以内に第1回労働審判期日が指定されます。
使用者には申立書副本が送付され、第1回労働審判期日までに反論を準備するよう求められます。
④第1回労働審判期日
一般的な法廷ではなく、大きなテーブルに労働者、使用者、労働審判委員会がそれぞれ着席する方式で行われます。
労働審判では口頭でのやり取りが重視されており、事実確認のため、労働審判委員会から適宜当事者に対して質問がなされます。
場合によっては第1回期日において調停が試みられることもあります。
⑤第2回労働審判期日以降
第2回以降は調停の試みが中心となります。
調停の試みでは労働審判委員会からの調停案の提示や当事者からの解決案の提示に基づいて、その内容に対しての意向を当事者双方に確認します。意向確認は個別に行われることが多く、その際、一方は一時的に退室します。
当事者双方が調停案や解決案について合意した場合には調停調書が作成され、労働審判手続は終了します。
第2回期日で合意に至らない場合には第3回期日に持ち越されます。
⑥調停不成立及び審判
第3回期日でも調整成立に至らない場合、労働審判委員会が審判を行います。
審判では、紛争解決のために相当と認める事項を柔軟に定めることができます。
多くの場合、審判は期日において口頭で告知されます。
2週間以内に当事者双方から異議が出なかった場合には審判は確定します。
当事者のいずれかから異議が出た場合には審判は効力を失い、訴訟に移行することになります。
メリット
原則3回以内の期日で結論に至るため訴訟に比べて早期解決が期待できる。
調停や審判には強制力がある。
デメリット
使用者と同席する必要がある。
審判に異議が出され訴訟に移行した場合、当初から訴訟を提起した場合よりも結果的に時間がかかる。
厳密な事実認定は行われない。
訴訟
労働関係に基づくトラブルが発生し、当事者間や代理人を通じた解決が困難な場合や労働審判に異議が申し立てられた場合に、裁判所において、法的主張や立証を行い、裁判所の判断(判決)を求める手続です。
メリット
厳密な事実認定に基づく判断が行われる。
残業代請求の場合には付加金の支払いが命じられる場合がある。
デメリット
争いのある事実関係について証拠による立証が必要となる。
争点の多寡によるが結論が出るまでに半年以上の時間がかかることが多い。
個別労働紛争のあっせん
労働関係に基づくトラブルが発生し、当事者間での解決が困難な場合、労働委員会においてトラブル解決の助力をする手続です。
あっせんの流れ
①あっせん申請
申請書に必要事項を記入し、職場が所在する都道府県労働委員会事務局に提出します。
あっせんの費用は原則として無料です。
②あっせん員の指名
労働問題の専門家である、公益側代表(学者等)、労働者代表(労組役員等)、使用者側代表(経営者等)の3名が指名されます。
③労働者及び使用者に対する事前調査
あっせんに先立ち、労働委員会事務局が、申請書に基づいてトラブルの経過と互いの主張の聴き取りを行います。
申請者に対しては申請時に、相手方に対しては申請後速やかに行われます。
聞き取りの際に資料の提出を求められることがあります。
④あっせんによる調整
あっせんは労働者及び使用者の都合が合う日程に設定されます。
あっせん員は労働者及び使用者から個別に事情を聴き取り、互いの主張について協議を行った上で、労働者及び使用者に対して、説得、意向の打診、紛争解決に向けた方針や解決案(あっせん案)の提示等を行い、トラブル解決に向け当事者の調整を行います。
⑤あっせんの終了
ⅰ トラブル解決
当事者双方があっせん案を受け入れた場合、あっせん員の助言に従い当事者双方が自主的に話し合うことを合意した場合、トラブルについて合意書を作成した場合等には、あっせんはトラブル解決により終了します。
ⅱ 打ち切り
相手方があっせんに応じない場合(相手方の不参加もここに含まれます)、当事者双方にトラブル解決に向けた歩み寄りが認められない場合等であっせん員がトラブル解決の見込みがないと判断した際にはあっせんは打ち切りとなり終了します。
ⅲ 取下げ
あっせん前に当事者間でトラブルが解決した等の場合で申請者が取下書を提出した場合にはあっせんは取下げにより終了します。
メリット
原則として費用がかからない。
おおよそ1か月程度で結論が出る。
相手方と直接話し合う必要がない。
相手方以外の関係者には申請内容等が伝わらない。
デメリット
強制力がなく、相手方があっせんに参加しない場合には打ち切りとなってしまう。
訴訟等の他の手続と並行して利用することができない。