事案の内容
依頼者は、会社に入社して以来、一度も残業代を支払われることがなく、時間外労働を続けてきました。会社はいわゆる家族経営であり、社長が絶対との風潮があったことから、残業代請求を行うことはできませんでした。同僚らは、残業代が支払われないだけでなく、経営陣のあまりのワンマン経営に限界を感じ、次々と辞めていってしまっていました。依頼者もとうとう限界を迎え、会社を退職しました。その際、依頼者は会社に対して自ら残業代請求を行いました。しかし、会社側はよく分からない理屈を付けて、一円も残業代を支払うことをしませんでした。そこで、弁護士に相談に訪れました。
事案の経過(交渉・調停・訴訟など)
まずは、依頼者から依頼を受け、相手方会社に対してタイムカード、就業規則、賃金規定の開示を求め、それと同時に未払残業代の請求をする旨の書面を送りました。すると、相手方会社はすぐに弁護士に依頼するに至りました。
相手方弁護士と交渉を始めた結果、会社としては、固定残業代を支払い済みであり、未払残業代は10万円にとどまるとの回答をしてきました。その後も交渉を進めていきましたが、金額の乖離が大きく、やむなく訴訟での解決を図ることとなりました。
訴訟では、固定残業代の有効性、タイムカード通りの勤務が行われていたか、外回り時に休憩を取ることができなかったという依頼者の主張の信憑性が問題となりました。
そこで、依頼者の仕事内容のタイムスケジュールや、外回り時の訪問内容・所要時間等を詳細に主張し、依頼者の勤務状況を明らかにしていきました。
本事例の結末
依頼者の主張を裏付ける証拠資料がなかったものの、詳細な主張をしていったことで、裁判所は依頼者の主張を一定程度認めるに至りました。その結果、交渉時に提示された10万円を大きく上回る80万円の未払残業代支払いを内容とする訴訟上の和解が成立するに至りました。
本事例に学ぶこと
未払残業代請求にあたっては、労働者が労働の有無・時間について主張立証責任を負っています。しかし、労働者の労働内容を詳細に裏付ける資料がきれいに揃っていることはあまりなく、労働者の主張は認められなくなってしまいます。
そこで、日記などを基に、どのような仕事をしていたのか、外回りの取引先はどこにあって所要時間はどれくらいかかるのか、といった事情を詳らかにしていくことで、裁判所から一定の理解を得ることができます。
本件も依頼者と地道な作業を行っていくことで、労働時間を一定程度推認させることができ、未払残業代を獲得することができました。
弁護士 平栗丈嗣